好きだった人の、ずっと隣にいた人
中島健人くんが好きだった。
新曲が出るたびに健人くんは私の通勤経路にいた。
仕事は本当につらかった。毎日夜遅くまで働いた。仕事ができないことがつらかった。「この仕事は私には難しくて、私にはできない仕事だ」と認めるまでに3年半かかった。
大きな横断歩道を渡った先に健人くんはいつもいた。時に仔犬のように微笑み、時にクールな視線で行き交う人を見下ろしていた。
大きな横断歩道は私にとって氾濫した大河だった。毎朝息を止めて、自分を殺して、心をなくして大きな河を渡った。健人くんだけを見て、涙をこらえて、毎朝どうにか会社のセキュリティゲートにカードをかざした。
夏に会社を辞めて、河を渡ることも、健人くんを見て手のひらにぎゅっと力を入れることもなくなった。仕事がなければ近付くことのない駅だ。健人くんのいる東京で暮らすことはあきらめて、田舎に帰ってきて暮らしている。
健人くんの隣には変わらず風磨くんがいる。
すこし痩せて、頬がすっきりしたね。さらさらのショートヘアから覗く肌は相変わらず白くて柔らかそう。笑ったときになくなる目がかわいい。健人くんを呼ぶときに少し語尾を伸ばす癖がいとおしい。
ずっと視線の端で見ていた人。健人くんを追いかけたら必ずそこにいた人。健人くんの大切な人。健人くんを大切に思う人。
はじめから好きになるとわかっていたような、でもまだ認めたくないような、健人くんのずっと隣にいた人への気持ち。
いま、3月のコンサートで、何色のワンピースを着たらいいのか悩んでいる自分がいる。